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※アフィニトールの結節性硬化症における効能又は効果は「結節性硬化症」です。

遺伝子変異(病因)

結節性硬化症の遺伝子変異(病因)

結節性硬化症は常染色体優性遺伝の疾患(Gunther and Penrose、1935)で、TSC1TSC2とよばれる遺伝子の異常によってmTOR(mammalian target of rapamycin)という酵素が過剰に活性化されて発症します。

原因遺伝子としてTSC1遺伝子(Van Slegtnenhorst、1997)、TSC2遺伝子(European chromosome 16 tuberous sclerosis consortium、1993)の2つの遺伝子が同定されており、いずれもがん抑制遺伝子の一種です(表1)。TSC1/TSC2遺伝子がコードするタンパク質であるハマルチンとツベリンは脳、腎臓、肺など多くの臓器および組織に広範に発現しており、これらは複合体を形成してmTORの活性を抑制的に制御しています。
また、TSC1遺伝子とTSC2遺伝子は互いに相同的な配列を有しません(図1)が、複合体として協調的にはたらくため、臨床的にTSC1遺伝子とTSC2遺伝子異常による症状を区別することは難しいとされています。

結節性硬化症患者の体細胞では、それぞれ相同染色体上のTSC1遺伝子、TSC2遺伝子に変異が起こっています(異常アレル)が、残りのもう1本の染色体上の遺伝子(正常アレル)にも変異が起こると、その遺伝子座の正常機能が失われ、腫瘍化することも知られています。

mTORは細胞の成長、増殖や生存の調節にかかわっているため、この活性を抑制的に制御しているTSC1/TSC2複合体が機能しなくなるとmTOR活性が上昇し、細胞増殖亢進による異形成や腫瘍形成、血管新生などにより、さまざまな症状が全身性に出現すると考えられています。

表1 TSC1遺伝子とTSC2遺伝子の特徴

TSC1遺伝子 TSC2遺伝子
染色体位置9q3416p13.3
遺伝子サイズ55kb40kb
エクソン数2341
転写サイズ8.6kb5.5kb
病変でのLOH高頻度
タンパク質Hamartin(ハマルチン)Tuberin(ツベリン)
タンパク質のサイズ1,164アミノ酸、130kDa1,807アミノ酸、180kDa

Curatolo P, et al. Lancet 2008; 372: 657-668より改変

図1 TSC1/TSC2遺伝子の構造

TSC1 / TSC2遺伝子変異の特徴

結節性硬化症の原因となる遺伝子変異は、TSC1遺伝子またはTSC2遺伝子のいずれかに存在し、TSC1遺伝子変異が10~20%、TSC2遺伝子変異が80~90%とされています。TSC1遺伝子変異は家族例の10~20%、孤発例の10~15%に認められており、TSC2遺伝子変異は孤発例の60~70%に認められます。

TSC遺伝子変異では、変異のホットスポット(多発域)がなく、微小変異から大欠失までバリエーションに富むことがわかっています(表2)。

TSC1遺伝子変異の大部分はフレームシフト変異によるタンパクの早期翻訳終結に至るもので、ミスセンス変異や大欠失の存在はほとんどありません。一方、TSC2遺伝子変異は多様で、一部の症例では隣接するPKD1(polycystic kidney disease type1)遺伝子の欠失を含むものもあります。ミスセンス点変異もTSC1遺伝子変異よりもTSC2遺伝子変異に多く、GAP(GTPase activating protein)ドメインに集中しています。

表2 結節性硬化症の遺伝子変異の特徴

変異 TSC1遺伝子 TSC2遺伝子
大きい変異 0(0%) 54(18%)
挿入 26(17%) 26(9%)
欠失 55(36%) 67(23%)
ナンセンス点変異 60(39%) 55(19%)
スプライシング点変異 11(7%) 31(11%)
ミスセンス点変異 2(1%) 59(20%)
154 292

Cheadle JP, et al. Hum Genet 2000; 107: 97-114

遺伝子変異の確認できない結節性硬化症とモザイク

結節性硬化症患者の10~15%の症例では、遺伝子検査で変異が検出できないとされています。検出できない理由としては、変異を検出する方法の問題、プロモーター領域やイントロンの変異、モザイクの存在があげられます。

*モザイク:遺伝学的に異なる組織が生体内で並置して存在する状態。ときに起こる現象として通常でも、病的状態としても見出される。原因は体細胞突然変異(遺伝子モザイク)、染色体数の異なる2型以上の細胞(染色体モザイク)を生じるような染色体分裂の異常、あるいはキメラ現象(細胞モザイク)による。
(ステッドマン医学大辞典[改訂第5版]1118ページより引用)

体細胞レベルおよび生殖細胞レベルでもモザイクを示す症例が報告(Verhoef、1999)されており、モザイクの存在が稀ではないことが示唆されています。体細胞および生殖細胞でのTSC遺伝子の変異モザイクがどの程度の頻度で存在するかは不明ですが、遺伝相談や遺伝子検査で常にこのモザイクの存在を考慮する必要があります。
なお、結節性硬化症患者の60%では両親に結節性硬化症の症状がないことがわかっていますが、これは両親どちらかの配偶子細胞に突然変異が生じた生殖細胞モザイクの可能性が考えられます。

結節性硬化症の発現機序

TSC1/TSC2それぞれの遺伝子産物であるタンパク質TSC1(ハマルチン)とTSC2(ツベリン)は複合体を形成してmTORの活性を抑制的に制御しています。TSC遺伝子の変異により、この複合体が機能しなくなると、mTORの活性が上昇し、細胞増殖による異形成や腫瘍形成、血管新生などが亢進します。

TSC1/TSC2複合体は、低分子量GTP結合タンパク質であるRheb(Ras homolog enriched in brain)のGTPase activating protein(GAP)としてはたらきます。つまりmTORの活性化に関与するRheb-GTP型(Rheb活性型)を脱リン酸化してRheb-GDP型(Rheb不活性型)にすることにより、mTORを抑制的に制御しています。

正常細胞では、増殖刺激があるとPI3K-AKTシグナル経路を介してTSC2(ツベリン)がリン酸化されるとTSC1(ハマルチン)が遊離され、TSC1/TSC2複合体のGAPとしての機能がはたらかなくなり、mTOR活性が促進された結果、その下流のS6K14E-BP1にシグナルが伝達されて細胞増殖や血管新生などが亢進します(図2)。

TSC1遺伝子またはTSC2遺伝子に変異が生じることにより、TSC1/TSC2複合体がGAPとして機能しなくなると、結果としてmTOR活性が促進されるようになります。そして、その下流のタンパク質が合成され、異常な細胞増殖亢進による異形成や腫瘍形成、血管新生などが促進されることが、結節性硬化症の臨床症状と関連していると考えられています(図3)。

図2 TSC1/TSC2複合体によるmTOR活性の制御
図3 TSC1/TSC2遺伝子の変異によるmTOR活性の上昇

参考文献
Cheadle JP, et al. Hum Genet 2000; 107: 97-114
Crino PB, et al. N Engl J Med 2006; 355: 1345-1356
Curatolo P, et al. Lancet 2008; 372: 657-668
Gunther M, et al. J Genet 1935; 31: 413-430
European chromosome 16 tuberous sclerosis consortium. Cell 1993; 75: 1305-1315
Jozwiak J, et al. Lancet Oncol 2008; 9: 73-79
Van Slegtnenhorst M, et al. Science 1997; 277: 805-809
Verhoef S, et al. Am J Hum Genet 1999; 64: 1632-1637
大野耕策. 日小児会誌 2002; 106: 1556-1565

監修:鳥取大学名誉教授 大野耕策 先生

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