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監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)

TSC1 / TSC2 遺伝子変異型と症状

TSC1 / TSC2 遺伝子変異型と症状

結節性硬化症の原因は染色体9番に存在するTSC1遺伝子または染色体16番に存在するTSC2遺伝子のいずれかの変異によります。TSC1遺伝子はハマルチン蛋白質を、TSC2遺伝子はツベリン蛋白質を産生します。ハマルチンとツベリンは複合体として、細胞内のmTOR活性の制御をしています。結節性硬化症の多くの症状はmTORの制御がきかなくなることで引きおこされると考えられています。TSC1遺伝子変異例とTSC2遺伝子変異例には明らかな差はありませんが、表1のようにTSC1遺伝子変異例のほうがTSC2遺伝子変異例にくらべ軽症である傾向が報告されています1)~4)。家族例にTSC1遺伝子変異が多く、孤発例にTSC2遺伝子変異が多いことが知られています。

個々の症状と遺伝子変異型を検討した報告5)表2)によれば、TSC2遺伝子変異をもつ症例で、有意に高頻度で認められた症状は、てんかん精神遅滞上衣下結節、平均上衣下結節数、脳の総結節数(10個以上)、平均結節数、腎血管筋脂肪腫、額の線維腫、網膜過誤腫であり、腎血管筋脂肪腫においては重症度にも有意差がありました。

また、各TSC遺伝子における個々の変異(遺伝子型)と表現型の関連について検討されています6)が、現段階では個々の特異的な変異から表現型を予測することは難しいとされています。従って、臨床的に個々の患者に合わせたモニタリングが非常に重要となります。

表1 TSC1/TSC2遺伝子変異における症状の傾向

TSC1遺伝子変異 TSC2遺伝子変異
TSC1遺伝子変異TSC2遺伝子変異と比較して、症状は概ね軽度である
・てんかん発作の頻度は低い
・精神遅滞は中等度~重度である
・上衣下結節(SEN)および大脳皮質結節は少ない
・重篤な腎病変は少ない
・網膜過誤腫との関連報告はない
・重篤な顔面血管線維腫は少ない
TSC2遺伝子変異TSC2遺伝子変異で発現頻度が上昇するもの
 -精神遅滞(加えて重症化する)
 -多発性嚢胞腎
 -難治性のてんかん発作
 -自閉症
・多数に発現するもの
 -結節
 -皮膚病変
・腎血管筋脂肪腫(腎AML)のサイズが大きい
・心横紋筋腫のサイズが大きい

Dabora SL, et al. Am J Hum Genet 2001; 68: 64-80より作表

表2 TSC1またはTSC2遺伝子に変異をもつ孤発例の症状

TSC1
(n=22)
TSC2
(n=129)
p値
年齢中央値(範囲)(歳) 9
(2~51)
10
(1~44)
NS
てんかん 19/22
(86%)
127/128
(99%)
0.02
精神遅滞(6歳以上、中等度以上) 2/14
(14%)
41/90
(46%)
0.04
上衣下結節(SEN) 15/20
(75%)
127/136
(93%)
0.02
平均上衣下結節数 1.7 6.7 0.0002
脳の総結節数(10以上) 1/9
(11%)
29/42
(69%)
0.002
平均結節数 4.4 12.9 0.002
腎嚢胞 グレード(1~4) 3/19
(16%)
30/122
(25%)
NS
 平均グレード(0~4) 0.16 0.52 NS
(0.14)
腎血管筋脂肪腫 6/19
(31%)
72/121
(60%)
0.03
 平均グレード(0~3) 0.32 0.97 0.006
白斑 20/21
(95%)
124/128
(97%)
NS
顔面血管線維腫(2歳以上) 13/22
(59%)
95/121
(78%)
NS
爪囲線維腫 5/20
(25%)
26/128
(20%)
NS
額の線維腫 2/20
(10%)
51/128
(40%)
0.01
網膜過誤種 0/16 32/117
(27%)
0.01
心横紋筋腫 8/17
(47%)
58/117
(50%)
NS
肺リンパ脈管筋腫症(女性、16歳以上) 0/5 3/17
(18%)
NS

t検定

大野耕策. 日小科会誌 2002; 106: 1556-1565

2013年に報告された、日本人結節性硬化症患者57例(家族性8例、孤発性49例;確定診断46例、結節性硬化症疑い11例)の遺伝子変異に関する疫学調査7)によると、TSC1遺伝子変異を有する症例は11例(家族性2例、孤発性9例;すべて確定診断例)、TSC2遺伝子変異を有する症例は20例(家族性2例、孤発性18例;確定診断19例、結節性硬化症疑い1例)の計31例でした。日本人結節性硬化症患者では、米国および欧州の結節性硬化症患者にくらべ、孤発例においてTSC1遺伝子変異の割合が有意に高いことが示されました(p=0.007、χ2検定)。その他、日本人結節性硬化症患者ではTSC2ナンセンス変異が低頻度でしたが、遺伝子変異の分布・タイプに関して既報との間に大きな差は認められませんでした。TSC1遺伝子変異例でTSC2遺伝子変異例にくらべ発育遅滞および/または精神遅滞の発現頻度(p=0.032、Fisherの正確検定)、重症度(p =0.015、Fisherの正確検定)ともに軽度で、既報を裏付けるような内容でした。他の症状と遺伝子変異型に関しては特に関連が認められていません。

参考文献
1) Dabora SL, et al. Am J Hum Genet 2001; 68: 64-80
2) Jones AC, et al. Hum Mol Genet 1997; 6: 2155-2161
3) Jones AC, et al. Am J Hum Genet 1999; 64: 1305-1315
4) 脇坂晃子. 金沢大十全医会誌 2006; 115: 62-74
5) 大野耕策. 日小児会誌 2002; 106: 1556-1565
6) Napolioni V, et al. Brain Dev 2009; 31: 104-113
7) Niida Y, et al. J Hum Genet 2013; 58: 216-225

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