監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)
国際結節性硬化症コンセンサス会議(International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference)が2012年6月に米国ワシントンDCで開催され、診断基準1)および検査・治療2)に関するレコメンデーションが発表されました。
この会議の目的は、1998年のコンセンサス・レコメンデーション(合意推奨)を、結節性硬化症の検査・治療に関する最新の科学的エビデンスや臨床実績に基づいて改訂することで、14ヵ国、79名の専門家より成る結節性硬化症コンセンサスグループで検討されました。
以下にPediatric Neurology誌に発表された2つの論文をもとに、このレコメンデーションを概説します。
遺伝子検査*の結果が診断基準に採り入れられ、正常組織においてTSC1遺伝子あるいはTSC2遺伝子変異の存在があれば、臨床的な診断基準を満たさなくとも、確定診断とすることになりました。
*遺伝子検査のメリット、デメリットをしっかり把握することが必要です。日本では通常、出生前診断は行うことはできません。また、遺伝子検査は一部の研究機関のみで実施しており、保険適応外です。
従来の診断レベルから“probable(ほぼ確実)”が削除され、“possible(推定)”と“definite(確定)”の2段階になりました。
臨床的診断基準の小症状が9項目から6項目になりました。
腎に関するおもな変更点および注記:
①従来の“腎血管筋脂肪腫”から“腎”を削除し、“血管筋脂肪腫”としました(肝臓やその他の臓器の血管筋脂肪腫も重要なため)
②臨床的診断基準の大症状の記載が“血管筋脂肪腫(2個以上)”となりました
③血管筋脂肪腫には“AMLs”の略号は使用しないことになりました(急性骨髄性白血病との混同を避けるため)
Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 243-254
A. 遺伝的診断基準
正常組織から抽出したDNAにおいてTSC1あるいはTSC2の「病的変異」が特定できれば、結節性硬化症の確定診断に十分である。
病的変異とはTSC1またはTSC2蛋白質機能の不活性化(フレームシフト変異あるいはナンセンス変異)、蛋白質合成障害(大きい欠失)、あるいは蛋白質機能に影響を及ぼすことが機能評価で確実な(www.lovd.nl/TSC1,www.lovd/TSC2, and Hoogeveen-Westerveld et al. 2012 and 2013)ミスセンス変異として定義される。
TSC1あるいはTSC2遺伝子の塩基置換による蛋白質の機能への影響が不確実な場合、「病的変異」と断定することはできず、結節性硬化症の確定診断とはならない。
結節性硬化症患者の10~25%は従来の遺伝子検査*では変異を特定できないこと、遺伝子検査*が正常でも結節性硬化症を除外し得ないこと、あるいは遺伝子検査で正常でも結節性硬化症の臨床的診断基準の使用に何ら影響しないことに留意すべきである。
*遺伝子検査のメリット、デメリットをしっかり把握することが必要です。日本では通常、出生前診断は行うことはできません。また、遺伝子検査は一部の研究機関のみで実施しており、保険適応外です。
B. 臨床的診断基準
大症状 | 小症状 |
1. 低色素性白斑(3個以上、直径5mm以上) | 1. 散在性(Confetti)皮膚病変 |
2. 顔面血管線維腫(3個以上)あるいは前額線維隆起斑 | 2. 歯エナメル陥凹(3ヵ所以上) |
3. 爪囲線維腫(2個以上) | 3. 口腔内線維腫(2個以上) |
4. シャグリンパッチ(隆起革様皮) | 4. 網膜無色斑 |
5. 多発性網膜過誤腫 | 5. 多発性嚢胞腎 |
6. 皮質異形成* | 6. 非腎臓性過誤腫 |
7. 上衣下結節 | |
8. 上衣下巨細胞性星細胞腫 | |
9. 心横紋筋腫 | |
10. リンパ脈管筋腫症(LAM)† | |
11. 血管筋脂肪腫(2個以上)† |
確定診断(definite TSC) = 上記大症状2項目以上、あるいは大症状1項目と小症状2項目以上
推定診断(possible TSC) = 上記大症状1項目、あるいは小症状2項目以上
* 皮質結節・放射状大脳白質神経細胞移動線を含める
† LAMと腎血管筋脂肪腫の組み合わせで、他の特徴がない場合には、確定診断とはならない
Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 243-254
検査・治療に関するレコメンデーションについては、NCCNガイドラインの構成方法に基づき、各レコメンデーションの内容についてエビデンスレベルに応じて、レコメンデーションカテゴリーが設けられました。(表2)
「新たに診断したあるいは疑った時」と「結節性硬化症と既に確定診断または推定診断されている場合」とに分けて示されました。以下に、検査・治療に関するレコメンデーションを、遺伝子検査*と臓器別にご紹介いたします。
*遺伝子検査のメリット、デメリットをしっかり把握することが必要です。日本では通常、出生前診断は行うことはできません。また、遺伝子検査は一部の研究機関のみで実施しており、保険適応外です。
表3 結節性硬化症と新たに診断したあるいは疑った時の検査のレコメンデーション
表4 結節性硬化症と既に確定診断または推定診断されている場合の検査と治療のレコメンデーション
参考文献
1) Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 243-254
2) Krueger D. A, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 255-265